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機関紙「住団連」
  • 『定期借家権で土地流動化を』
  • 法政大学教授  福井 秀夫
  • 近年、定期借家権をめぐる議論が活発になっている。1996年12月に公表された、経済審議会行動計画委員会報告では、定期借家権の創設は土地住宅対策の核心と位置づけられている。現行の借地借家法の正当事由制度は、1941年に戦時緊急立法の一環として導入されて以来、改正されないままになっており、継続賃料抑制主義(継続賃料を新規賃料水準と比べて必ず抑制)に立つ判例とならんで、日本の土地住宅市場を大きく歪める役割を果たしてきた。1941年に78.3%であった借家率は、1988年に47.1%に激減している。特に、ワンルーム借家のシェアが5.5%から15.6%に増大し、1988年のワンルーム住宅に占める借家比率は97.4%にものぼっている。
  • 現在の借家は、借手自身が望まない限り、法外な立ち退き料を支払うなどの特殊な事例をのぞいては解約が一切不可能であり、更新を繰り返せば繰り返すほど賃料水準は市場賃料とかい離し続けるなど、貸家の収益性は法令と裁判制度により極端に低く抑えられている。
  • 定められた期限で借家権が消滅する定期借家権を導入し、継続賃料の算定基準を市場賃料主義とするよう立法で裁判所を拘束することにより、住宅等の建設投資の活性化がもたらされる。すなわち、現在、貸家は実質的にキャピタルゲインを獲得することが不可能となっている。定期借家権を導入すれば、自己が居住する家屋、すなわち持ち家でなくても、同等の資産価値を享受できることになる。このような収益性の増大に伴う借家供給の増大を通じて、零細な土地も含めて大幅に土地が流動化することが見込まれる。景気対策の切り札の最有力政策こそ、定期借家権の導入なのである。
  • ところが、法務官僚、弁護士、民事法解釈学者等は現在のように判例に法則性がなく、事件になったときの裁判官の胸の中次第ともいうべき不明確な法解釈状況そのものから莫大な利益を得ている。法が不明確なことは紛争そのものを誘発するのみならず、貸手側、借手側双方の代理人としての弁護士の需要を増大させる。法が不明確なまま判例が集積することは、その領域を中心的活動領域とする民事法解釈学者の業務の維持拡大を可能とする。借地借家法を所管する法務官僚組織や裁判組織の肥大化をも可能とする。定期借家権の導入とは、これらの既得権益階層の利益を剥奪し、一般市民の利益を増大させることに他ならない。
  • しかるに、内閣提出法案の場合、法務省が借地借家法改正案の原案を作成することとなる。定期借家権制度の導入や借地借家法の改正作業を法律家、法務官僚に委ねるのは、泥棒に金庫の設置、施工を委ねることと等しくなりかねない点に注意を要する。
  • 現に、自由化論者と慎重論者の双方が集う都市住宅学会の定期借家権研究会に関して、参加研究者、その恩師、参加を求められた建設省等に対して法務省の担当責任者は参加を見合わせるよう直接要請した。一介の官僚が学術的議論を封殺しようとすることの意味と、裁判官出身のこの官僚をそこまでに駆り立てた背景は何かを検証する必要がある。住宅関連業界は、自由な市場の中で本来獲得できるはずの産業の利益を損ね、民主主義そのものをも歪める勢力に対して毅然たる声を上げなければならない。

 

 

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