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機関紙「住団連」
  • 『あるプレハブ住宅団地の30年』
  • 東京大学助教授  松村 秀一
  • このところ国の内外を問わず30〜40年を経た住宅や住宅地を訪ね歩いている。
    日本で言えば昭和30年代から40年代前半にかけて、所謂高度経済成長期に建設された住宅や住宅地である。
    新しい建築をどうつくっていくか、その構法や生産を研究対象としてきた私が、古びた住宅・住宅地とその齢の重ね方を調べ始めたのには訳がある。
  • 第一に、これまで新築一辺倒できた日本の住環境形成もそろそろ転換期にさしかかるだろうという直感がある。欧米の先進諸国では既にリノベ−ション、リハビリテ−ション(日本で言うリフォ−ムや増改築)市場が新築市場と拮抗しており、その中心的な存在は1960年代後半から1970年代前半にかけての「マスハウジング」の時代に建設された住宅である。そうした国々では、住宅の物理的な劣化だけではなく、コミュニティの荒廃等、日本が未だ本格的に経験していない問題群が顕在化しており、そのことへの対応として、これまた日本ではお目にかかれない大胆なリハビリ行為(私は「再生」と呼ぶことにしている)への取り組みが数多く見られる。日本も近い将来同じような道を辿ることになると考えるのは自然であろう。
  • 第二に、今まさに急速な経済成長の坂道を上りつつある国々からの留学生が増え、私の立場では過去の日本の経験を相対化する必要に迫られている。高度経済成長期の日本が、急増する住宅需要を前に、どの様な政策を立て、どの様な建設技術を開発・適用したか、そしてそれに対応する産業がどの様に編成されてきたか等については、語る材料に事欠かない。しかし、その結果出来上がった多くの住宅や町がどの様に住まわれ、現在どの様な住環境に帰結しているのか、つまり建設後の評価として語れる事柄は驚く程少ない。これでは留学生達がかつての日本を範として良いのかどうか明言することすらできない。心もとない限りである。
  • そんな訳で、数年前から、欧米の建築家や研究者と共同して、マスハウジング期に建設された集合住宅の再生事例を収集し始める一方、日本の初期プレハブ住宅団地の経年変化を調べている。昨年は、昭和40年頃に開発された200戸規模の住宅地を対象に経年変化の悉皆調査を実施した。分譲時に建設されたのは、広いものでせいぜい80m2の平屋建てプレハブ住宅である。調査前には、今日と比べて仕様も格段に劣る初期のプレハブ住宅のことだから、そのほとんどが30年も経たずに建替えられてしまっているだろうと想像していたが、さにあらず。全体の4割以上が今も残っていた。勿論、そのほとんどが内・外装や設備の改修工事を経験しているし、大半が増築されてはいる。そして、この増築方法がまた面白い。他の住宅メ−カ−の小規模な平屋建てや二階建てを横にくっつけたもの、鉄骨でおかぐらを組みその上に二階部分を在来木造でのせたもの、元のメ−カ−によって構造補強の上、部分的に二階を増築したもの等々、増築の例数だけバリエ−ションが存在する。プレハブは増改築に弱いといった話も耳にするが、30年という歳月に表出する住み手の要求と創造力は、建設者の計画的意図を軽々と乗り越えてしまうことを実感させられた。
  • さて、詳細は機会を改めてまた。

 

 

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