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機関紙「住団連」
  • 『住み替えのメリット・デメリット』
  • 東京大学教授  井堀 利宏
  • 私は岡山県の出身であるが、小さいときから全国各地10数カ所を転々としてきたため、ふるさとと呼べるほどの地域がない。最長でも、同一地域に8年しか住んだことがない。同郷の人々が県人会などで連帯しているのをみると、多少うらやましさを感じることもある。また、結婚後も、首都圏と近畿圏で民間の賃貸アパート、公務員宿舎、住都公団の分譲住宅、公庫利用の戸建て住宅といろいろな住宅に住み替えてきた。
  • 地域や住宅を住み替えることには、多くのメリットがある。日本各地で異なる文化や生活習慣に触れることで、新鮮な感動が得られる。小学生のときに過ごした、鳥取県の大山のふもとでの素朴で自然環境に恵まれた生活は、いまでも貴重な思い出となっている。また、大阪のテンポの速い人の流れや飾らない気質にも、居心地の良さを感じたりした。また、職場(大学)を変わることで、研究上の刺激を新しく受けたり、それぞれの大学での教授会の雰囲気の相違を経験するのも、人生経験にプラスになっている。
  • しかし、住み替えには多くのデメリットもある。まずは、引っ越しの費用である。最近では引っ越し作業もかなりの部分が規格化されて、料金さえ払えば、引っ越しの準備にそれほど時間をかけなくても、賄えるようになっている。それでも東京=大阪間で数十万円の費用はかなりの負担である。また、住宅の住み替えにも、取引費用は大きい。賃貸の場合であれば、敷金や保証金が数十万円の単位で要求されるし、分譲の場合には、取引にさまざまな税金や手数料が必要となる。また、子供の学校が義務教育を除いては、なかなか中途で自由に編入学できないことも、移動の制約になっているだろう。私の周辺でも、東京に住みながら大阪や京都の大学まで毎週勤務している先生や、逆に、大阪に住みながら毎週のように東京の官庁に通っている先生が少なからずいる。私も1年間だけであるが、東京と大阪を毎週飛行機で往復した経験があるが、体力的にも精神的にも大きな負担であった。
  • わが国ではこれまで、定住して農業を営む生活を前提とした文化や社会が長く続いてきたせいか、人の流動化を想定しない法制や税制が多くみられる。国際的な大競争の時代を迎えて、そうした旧来の制度を改善することで、より刺激的で楽しい生活が享受できるだろう。最近晩婚化が進展しているが、これも結婚すると一生束縛されるかもしれないという固定費用が効いている。家族形態に関する国民の価値観がより多様化し、それに法制度が対応していけば、結婚のデメリットは減少するだろう。同様に、ある場所である特定の住宅に住むことの固定費用が軽減できれば、だれでも住宅の住み替えのメリットを十分に楽しむことができる。住宅の住み替えを支援する政策として、最近、定期借地権とともに定期借家権が導入されようとしている。こうした流れが国民全体のなかに定着することを期待したい。

 

 

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