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機関紙「住団連」
  • 『住宅の空気質と高生活水準社会』
  • 横浜国立大学助教授  堀 雅宏
  • 健康と快適性は、近年の衣食住と安全を一応満たした世界のトレンドである。生活水準といえばエンゲル係数を連想したのは遙か昔になってしまった日本の社会で、住環境にもその波が来たが、住宅展示場の住宅で目がチカチカするなどの訴えがあったのがずいぶん前であったかのような錯覚を覚える昨今である。関係業界や機関の素早いその対応は、現在ホルムアルデヒドから揮発性有機化合物(VOC)に移っているように見うけられる。
  • 筆者が本格的に室内環境問題に取り組んだのは約10年前で、この時期、我が国では室内環境といえば温熱指標が主で、汚染物質は粉塵、二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化窒素、ダニカビなどとされていた。今から思えば新築に伴うホルムアルデヒドやVOCの汚染は受容されるべきものとされていたかの観がある。私が室内空気質の話を求められたときには、今日のような問題になってきた背景として、よくいわれる建物の高気密化・高断熱化、新建材の使用のほかに、家庭における化学物質の使用、大気や食物など他からの暴露量の増加と多様化、日本人の体質の変化、情報化社会、要求水準のアップなどを挙げてきた。焦点をぼかすわけでないが、原因の多様性を指摘したかった訳である。
  • ところで生物学的な影響は個体(個人)差が大きいが、例えば、ホルムアルデヒドによって目がチカチカを感じ始める濃度は人によって約200倍(0.01〜1.9ppm)の差があるといわれている。従って、我が国でもようやくガイドライン0.08ppm(0.1mg/m3、30分値)が出されたが、これでも満たされない体質の人々のいることも十分予想される。これまでも、現状を容認してきた人の割合は少なくないはずであるが、一部の敏感な人には火急の問題であった。
  • 一般に環境の測定値は条件によって高くもなり、低くもなる。ホルムアルデヒドの場合、同一建材、同一換気条件でも、濃度は温度湿度に比例して高くなることは周知の事実であり、ISO試案でもこの補正を23℃、45%基準で行う方法が紹介されていたが、気候、風土、生活形態は欧米と我が国では同一ではなく、このままの適用は合理的ではないと思われる。夏季における照り返しや冬季暖房の輻射熱による組み込まれた建材温度の上昇、エアコンの使用など、考慮すべき条件は多々あるが、当該地域で最も条件の厳しい月の平均気温・湿度でのクリアを目指すのも一法であろう。首都圏では、30℃、80%程度である。また、いかなるときにもクリアするとなると、出入口のドアや窓は閉めた状態(例えば防犯のために夜間8時間程度は締めたままのこともあろう)でのクリアを目指すべきであろう。
  • 基準やガイドラインは、万人に絶対的安全を保証するものではない。今日、我が国も車椅子利用者のために段差をなくすることに象徴されるようにバリアフリーの社会を目指す段階に入ったが、生理的弱者への配慮は健常者の快適性のニーズにも通じる。消費者側もこの要求には応分の負担を受け入れるべきであるが、建材と設計施工法と換気法の工夫で、合理的なコストでの供給がいっそう期待されている。

 

 

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