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機関紙「住団連」
  • 『在宅勤務と住宅の実情』
  • 東京理科大学工学部建築学科教授  真鍋 恒博
  • 昨今ではSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)なる言葉が流行しているそうで、我が国でも在宅勤務が普及しつつあるように言われている。ただし、自宅で設計事務所をやっていたり、商店や工場が住居に付属しているのは、「在宅勤務」とは言わない。在宅勤務あるいは所謂「SOHO」で行われる内容は、「本来は会社でやるべき仕事」を自宅ですることを意味しているようである。
  • 在宅勤務でまず問題になるのが、そのためのスペースである。在宅勤務は、本来ならば企業側で用意している筈の作業スペースを、自腹を切って自宅に移すわけだから、企業が在宅勤務を進めようとする理由の一つには、社員の作業スペースを節約しようという魂胆があるのかも知れない。
  • さらに、通信機器の発達で、それこそ週末の社員旅行の最中でも携帯電話に接続した小型パソコンで仕事するなどという状況も、テレビのCMだけの世界ではなくなりつつある。こうして、時間的にも空間的にも個人のものが会社に占有されてしまい、ますます会社人間にされてしまう。これでは人間性解放の時代に逆行するではないか。
  • 上記のような意味での仕事を自宅でするためには、そのためのスペースが必要である。具体的には「書斎」などのスペースを充てることになるが、自宅に書斎を持つ事は、マイホームを建てる際の一種の夢になっている。建売り住宅等から推定すると、寝室の奥に書斎を設けるプランが一般に要求されることが多いように思われる。しかしこれは、せいぜい寝る前に読書したり、主婦が家計簿を付けたり手紙を書いたりするデスクとしてしか役立たない。深夜にパソコンをカタカタ打っていたら先に就寝した妻に怒られること必定であり、寝室付属の書斎は、結局は物置になってしまう。
  • 本格的な在宅勤務を前提にしないのであれば、空間の使用効率からは、独立した個室を設けるのは無駄である。個室ではなく、コーナー的なものでも充分であり、家人が寝静まった後の居間の一隅で、大きなテーブルに資料を拡げてノートパソコンを使う方が、却って落着く。ただし休日や遅出の日に昼間から仕事をしていたり、家族の知人が泊りに来たりする場合には、当然ながら邪魔にされる。
  • パソコンにもノート型が普及し、かさばるCRT(テレビ型ディスプレー)は不要となってきた。こうした小型化によって仕事の場所の自由度はたしかに上がっているが、本格的な仕事はパソコンだけでは不可能であり、何か資料を見たり調べたりする必要がある。コピーやファックスなどの機材も必要である。本格的な在宅勤務を目的としたホームオフィスの機能を果たすためには、ある程度の規模の専用スペースが必要になる。
  • こうしたスペースや設備の前提のないまま、掛け声だけで事が進んでしまうというのは、我が国独特の新しいものの普及過程であろう。スペースの充足のないまま、ノートパソコンやパソコン通信の普及だけでSOHOの時代の到来だなどと言うのは、もってのほかである。

 

 

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