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機関紙「住団連」
  • 『正直 − 不正直』
  • お茶の水女子大学院助教授  田辺 新一
  • 21世紀に向かって日本は、急速な勢いで高齢化社会を迎える。その中で、住宅は単に寝食の場所から、癒しの空間としてさらに大きな意味を持つようになるだろう。その住宅で『シックハウス』とよばれるような化学物質汚染がおこっている。もちろん、住宅の設計者や生産者は、わざと問題のある化学物質を使用しているわけではない(と信じたい)。作っている人々自身もその住宅に住んでいるのだ。それらの化学物質は、強度を増したり、耐久性を上げたり、コストを削減するために用いられている。
  • 私は、住宅は正直であるべきと発言し続けている。『正直な住宅』というのがキーワードである。そもそも正直な住宅という言葉は、私がデンマーク滞在中に大学の友人から聞いた言葉である。車で一緒にドライブしている時、自分の娘夫婦が住んでいる集合住宅の前を通りかかった。このアパートは第二次世界大戦中に建設されたものであるという。戦時中で物資がないのでもちろん華美な作りではない。しかし、木材、ブロック、鉄などの正直な素材で構成されている。彼は、その集合住宅を指さして、「オネスト・コンストラクション」といった。快適で健康な室内環境に関して先駆的な取り組みを行っているデンマークでさえ、特定の機能は高いが素性のわからない材料で作られた住宅が多くなっている。また、成分が不明の材料が見えない部分に使用されている。
  • 別に私は、新しい材料が悪であるといっているのではない。何が起こっているのかがわからないことが問題なのである。この問題に限らず居住者や消費者に信頼を得るためには情報開示、啓発が極めて重要である。狼少年のようにいつも嘘をついていては、最後に誰も信用してくれなくなる。
  • 安全基準という言葉をよく聞くが、これはリスク評価に基づくべきものである。ある問題があったとしても、確率10-6 程度の影響であれば許容しても良いのではないかというような考え方である。しかし、いくら安全基準を訴えても、日頃の正直がなければそれは消費者の安心に繋がらない。
  • ホルムアルデヒド、VOCなどの化学物質は、様々なところに含まれている。
    かびや木材の臭いもVOCの一種である。その中で有害となる化学物質をリスク評価で許容濃度以下にすることが正しい。しかし、設計者や建設業者も納入される部材にどのような化学物質が含まれているのかわからないことが多い。
    まず材料や施工材に関する正直な情報と知識が必要となる。
  • 一方で自然素材が最も良く、何でも昔に戻れと言うのは、簡単である。しかし、現代のライフスタイルはなかなか捨てられない。便利な生活をしている自分のライフスタイルと住宅の関係を問い直す良い機会にきているのではないかと思っている。
  • また、機能性をもった化学物質を無毒化するプロセスも是非考えてほしいものだ。住宅の建設から廃棄までの化学物質を一貫して考えることが重要である。
    持続可能な社会が到来するように希望したい。

 

 

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