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機関紙「住団連」
  • 『レスポンシブな住宅』
  • 神戸芸術工科大学教授  小玉 祐一郎
  • 近ごろは部屋の窓の開かないホテルが増えてきたようだ。その理由は、室内の環境が十分快適にコントロールされているということだろう。空調も照明も完備されているから、窓を開ける必要などないというわけだ。暑さ寒さ、明るさ眩しさの変化の激しい外界を遮断して常に一定の快適さを維持し、いちいち窓を開閉する煩わしさから利用者を解放してくれるのは高度なサービスといえないこともない。確かにこのようなサービスにほっとすることもあるが、季節のいいときなどは窓が開かないことを恨めしく思うこともある。勝手といえば勝手なものだが、このようないろいろな感じ方は、第1に外の環境の状態に左右され、第2に人間側の状態に影響されるといえそうだ。
  • まず外の環境だが、その状況が悪いほどほっとする度合も大きい。熱、光、空気、音のいずれをとっても都心の環境は劣悪であることが多い。劣悪であればあるほど、そこから避難できるありがたさは大きいというものだ。逆にリゾートのようなところであれば、窓が開かないなどはもってのほか、何のために来たのかわからないと憤ることになる。もうひとつの人間の生理心理状態についていえば、疲れている、忙しい、仕事が山ほどあるといった状態であるほど、ぬるま湯のような快適さはありがたいと感ずる。元気で余裕があるときには退屈でうっとおしいと感じるだろう。いい陽気なら部屋を出て散歩に出かけてしまうにちがいない。もっとも、最近は窓を締め切ってがんがん冷房する夏のリゾートもある。これはゆとりのない短期滞在型のためらしい。体が慣れる暇もなく帰らなければならない事情には身につまされる。
  • なぜ窓が開かないか、別の視点から見てみよう。室内の気候を制御する側から見れば、外界の気候条件の変化はなるべく遠ざけておきたいもの。それは時に「外乱」と呼ばれるほどに、空調や照明のシステムを乱す要因であり、制御を難しくし、効率も落してしまうからである。エネルギー消費を増やしてしまう危険だってある。窓を開けるなどもってのほか、できることならば窓自体を小さくしたいところなのだ。そういわれてみれば、やたらに窓の小さい、独房のようなビジネスホテルが増えていることにお気づきだろう。このような立場から見れば、人間もまた同様にシステムを乱す「外乱」のようなものだ。窓をあけたままがんがん冷房すれば、部屋が結露でびしょびしょになって大騒ぎになってしまうこともある。ある国のホテルで目撃したことだが、このような例をみると、人が制御装置に触れぬように、ブラックボックスにしておきたいと願うエンジニアの気持ちもわかろうというものだ。
  • さて、ホテルはさておき、住宅とそれをとりまく環境や居住者のライフスタイルとの関係はどうであろうか。住宅の窓もまた次第に開かぬ方向に進むのであろうか。住宅は次第にブラックボックスになってゆくのであろうか。それとももし、外の自然環境が良い状態で維持保全できたとしたら、窓は開けられ、自然の変化が楽しみとしてとりいれられるようになるだろうか。また、もっとゆったりとしたライフスタイルに変わるとしたら、居住者は建物の操作や管理に参加してそれを楽しみとするようになるだろうか。前者をブラックボックスというなら、後者はレスポンシブな住宅ー自然と交感し、住まい手と対話する住宅ーといえるだろう。自然との関わり方、居住者の参加の形式において、上述したふたつの方向ではコンセプトも建物の作りようも対照的である。これからの住宅はどのような方向で進むであろうか。

 

 

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