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機関紙「住団連」
  • 『心に残る住まいの本』
  • 東京大学教授  西村 幸夫
  • これまで出会った住まいに関する本で心に残っているものを、出会いの順に3冊ほど振り返ってみる。
  • 学生時代に読んで衝撃を受けたのは、西山夘三『日本のすまい』(頸草書房、1975、76、80年)。A4版、全3冊合計1200ページに及ぶ浩瀚なこの本で、著者は船ずまいやドヤ、飯場からマンション、大邸宅に至るわが国の住様式すべてについて客観的な眼で体系的な理解を示そうとしている。それぞれの住宅について詳細な住まい方調査が実施され、文章だけでなく平面図から断面パース、さらには細かな図に至るまで独力でフリーハンドで描くという力の入れようである。このエネルギーに圧倒されてしまった。
  • これほどの情熱をひとつのことへ傾けるのは現代人にはほとんど不可能ではないだろうか。それは、よく言われるように専門分化が進んだ上に、インターネットのようなこれまでとは異なった形で、世界中の知見が糾合される仕組みを私たちが作り出しつつあるせいでもある。あるいは住まいそのものが戦後まもなくのように多様な幅を持ってひろがっているということがなくなったせいだろうか。もしも住宅そのものが若い才能を賭けるほどに魅惑的な対象ではなくなってしまいつつあるとしたら問題である。
  • 続いてマテリアルワールドプロジェクト編『地球家族−世界30ヶ国のふつうの暮らし』(TOTO出版、1994年)。住宅という器に世界の家族はどのような家財道具を詰め込んでいるのかを、引越しの場面でもあるかのように自宅の前にすべて陳列してくれた写真集である。30ヶ国の標準的家族の持ち物がこれほど異なっているのかと驚かされる。とりわけ日本の雑多な道具の多さは群を抜いている。いかに私たちが消費文明の宣伝に踊らされているかを見ているようでなさけない。私たちにとって住宅の問題は間取りや供給方法よりも、まず本当に必要な家財道具を選別するライフスタイルの問題であるように思える。
  • 最後の本は最近読んだ 原広司『集落の教え100』(彰国社、1998年)。著名な建築家がここ20年あまり模索してきた集落論の決定版である。これは集落に学ぶ設計論であり、同時に散文詩であり、格言でもある。たとえば「集落は物語である。集落の虚構性が、現実の生活を支える」。往来の集落論は自然発生的なその形態にたくまざる意図や美を見いだすことに主眼が置かれるが、この本では集落に偶然はありえないと断じている。すなわち「あらゆる部分を計画せよ。あらゆる部分をデザインせよ。偶然に出来ていそうなスタイル、なにげない風情、自然発生的な見かけも、計算しつくされたデザインの結果である」。なんという透徹した姿勢だろう。
  • この3冊はいまも手許にある。それぞれ異なったアプローチで住まいに迫っているが、根性を超えて住宅と対峙する姿勢は共通している。いつの日も学びたい姿勢である。

 

 

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