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機関紙「住団連」
  • 『奥行きのある社会』
  • 横浜国立大学工学部建設学科教授  小林 重敬
  • 近年、市場重視の議論が様々な分野で交わされている。筆者も参加し、本年9月に出された住宅宅地審議会住宅部会の「21世紀の豊かな生活を支える住宅政策について」(中間報告)もその例外ではない。すなわち住宅政策再編の方向性として重視すべき視点として市場重視とストック重視の2点を挙げている。市場重視が「競争を通して適正な価格のもとで多様な選択が可能となる様な市場機能の活性化」であり、そのことに異を唱える人は少ないであろう。
  • しかしここに一点留意すべきことがある。それは田中直毅氏がその著書「新しい産業社会の構想」(日本経済新聞社 1996年)で述べている次のような言葉である。田中氏は「市場経済の原理を徹底させることだけでは、来るべき社会は見えてこない。いわば、社会の奥行きの部分で伝統に受け継がれてきた「遺伝子」の部分が、市場原理と並ぶ形で、新たな社会を生み出すのではないか」、そして、この社会の奥行きの部分を持っている社会は「深い社会」であり、「市場を媒介しない一人一人の個人の社会への寄与が、この「深い社会」のつながりを支えることになるのではないか。」と述べているのである。
  • ところで上記の住宅部会中間報告は重視すべき視点として市場重視と並んで、ストック重視を打ち出しているが、このストック重視の視点は、田中氏の言う「社会の奥行きの部分で伝統的に受け継がれ」、市場原理と並んで、新たな社会を生み出す視点となるのであろうか。そのことにつながる言葉を、中間報告に求めるとすると次のような言葉に行き当たる。「市場を通して国民が共用しうる良質な住宅ストック(社会的な資産)を形成し、管理し、円滑に循環されることが出来る新しい居住水準向上システム」と言う言葉である。
  • この「社会的な資産を形成し、管理し、円滑に循環する」システムを構築するには、一人一人の個人や一つ一つの企業の社会への寄与が必要であり、その様な機運を生み出す「社会の奥行き」が必要である。すなわち住宅が「市場を通して国民が共用しうるものである」という認識があり、さらにそのような認識にいたるには、中間報告の基調となっている、住宅の中古市場、リフォーム市場を活性化することが、持続可能性の高い社会を生み出し、地球環境などの環境問題に寄与することであるという思いが必要である。
  • そして、上記のような機運が、新しい社会経済システムとして動くには、一人一人の個人や一つ一つの企業の思いだけでは十分ではなく、ボランティア活動、NPO活動、さらには企業のフィランソロフィーを促す制度システムが必要である。
  • それはこれまでの社会を支える公共性は行政が独占的に担っていたという行政的公共性と並んで、これからの社会では市民や民間企業側も公共性をもつという市民的公共性の議論にたどり着く。
  • ヘイゼル・ヘンダーソン「地球市民の条件」(尾形訳、新評論、1999年)に展開されている議論である。

 

 

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