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機関紙「住団連」
  • 『住環境価値の再構築』 ―サステイナブルな住宅生産のめざすもの―
  • 建築家・武蔵工業大学教授  岩村 和夫
  • 新築が全工事量の1割を切る。もちろん今すぐの話ではない。昨年9月に日本建築学会の大会で報告された50年後の日本の予測である。つまり、改築・リフォームが9割を超えるという。ただし、日本建築学会の地球環境委員会が提唱している、1つの建物を1998年度から今の3倍、つまり100年近く使うことを前提としている。いずれにしても、官民を問わず空前の債務を抱える日本経済の構造的問題や、2020年以降の人口の減少、急速な高齢化、そして廃棄物の最終処分場残余容量の逼迫による解体処分コストの高騰等々、私達の社会の長期的展望は新築物件の増加の方向には決して向かわない。
  • 50年後に私達の多くはここにいないが、この一つの予測は、次の世代の住宅産業が、戦後50年を形成してきたパラダイムとは全く異なる状況下に置かれることを予感させるに十分である。それは、これからの新築物件のあるべき持続可能な姿を追求すると同時に、その50年につくられた今ある膨大な「ストック」とどう立ち向かうかということに他ならない。これまでの欧米と日本の住宅市場の決定的な違いは、新築の着工戸数とともに、中古住宅の流通量である。戦前・戦後を通じて生活環境の大きな断絶を体験した私達は、新しい住まいの原体験を育むべき時期に、愛するに足る優れたストックを生むことができなかった。そして、個が集合してできるまちなみや都市環境として、次世代に胸を張って引き渡せるものをあまり残してはこなかった。
  • 言うまでもなく、住まいやまちは高齢化社会の大切な生活基盤である。経済学で言う「異時点間の資源の公正な配分」とは、そうした過去・現在・未来の「時をつなぐ」住まいやまちのあり方を指し示すものだ。21世紀のキーワードになりつつある「サステイナビリティ(持続可能性)」は、まさにそのことを意味している。住宅を巡る微分法的な技術開発自体は飛躍的な進歩をとげた。しかし、それらを統合し、積分法的な発想で構想するサステイナブルな計画技術や、そのベースとなる思想や原体験の積み重ねが今求められている。それは、人と時をつなぐ大切な使命を担う建築教育現場での大きな課題でもある。
  • 以上のような状況の中で、そこに住宅生産を巡る新たな企業の倫理と可能性を発見しようとするのか、あるいは相も変わらずバブルの再来を待ち焦がれるのか、その選択は時代と社会の展望に係わる私達自身の内なる課題である。そして、「環境」の持つ価値を「外部化」してきたこれまでのそろばん勘定を止め、それらを「内部化」した経済収支の考え方に向かうべき時を迎えている。土地建物の持続的な不動産価値とは、個々の住宅の環境性能だけではなく、まさにその周辺をも含めた総体としての「住環境価値」に他ならないからである。

 

 

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