住宅すまいWEB
ホーム / 過去ログ一覧 / 機関紙「住団連」 / 機関誌巻頭言 / 『住宅とコミュニティ』
機関紙「住団連」
  • 『住宅とコミュニティ』
  • 帝京大学法学部教授  土本 武司
  • 本年は日蘭修交400周年の年であるが、私は'91年ライデン大学、ユトレヒト大学の客員教授として務めて以来、夏は毎年ユトレヒトで過している。
    オランダの人は衣・食・住のうち、住を最も大事にしている。男性はもちろん、スラリと背の高い若い美人ですら”衣”には無頓着であるし、”食”に至っては料理の名に価しない食事で満足しているが、”住”についてはより良い家への探求心が強い。彼らにとって良い家とは新築家屋ではなく、むしろ年代のたったより古い家である。お伽話に出てきそうな旧市街の中の、中世さながらのファンタジックな姿を運に映している夏の私の家などはさしずめオランダの人の憧れの的である。
    そして、ユトレヒトの人は自分の家を慈むのと同様に街をいとおしみ、愛している。オランダ全土に網の目のように張り巡らされた運河の中でもユトレヒトしかない特別の構造の運河に沿った100を超える岸壁倉庫を、16世紀にその任務を終えるや、官の力を借りずに市民の力でレストランや劇場に改造したし、道路の石畳が傷めば、それを剥がしてコンクリート舗装にするというような手荒なことはせず、手作業で石を一個一個填め直して古い街の景観を損ねないようにしているし、住宅で囲まれた中庭的小公園は、それが市当局の管理下にあるものであっても、それを利用する住民が自発的に花壇を作り、樹木の世話をしている。街全体が家庭的ムードに包まれ、戸外にいても家庭に身をおいているような温かさと安らぎがある。この街には手造り精神に支えられたコミュニティ精神が横溢しているのだ。
    私は一昨年東京の現住所に住宅を新築した。私の息子が基本設計をしたその家は、人工換気や断熱気密性能等は最新式でありながらも、外観・内装は中世ドイツの木骨建築をしのばせるハーフティンバー様式の家屋であるが、私が心にかけたのは、ユトレヒトで学んだコミュニティ精神に基づく地域との同化ということであった。まず、日本の住宅の外壁は防犯上一般に高さ2メートル前後のものが多いが、煉瓦作りのわが家のそれは思い切って50センチメートルの低いものにした。庭はもちろん、家の内も見たければどうぞと言わんばかりのユトレヒトの住宅感覚を参考にし、通りがかりの人との距りを少くしようとしたのである。入ろうと思えば簡単に跨ぐことができるこの塀を見た地元の警察官は「外からも内からもスケスケだから泥棒は却って入りにくいでしょう。」と苦笑している。次に、その塀と家との間の庭の芝生と花壇の花の手入れを怠らないように務め、(専ら妻の仕事となったが)、バルコニーにはゼラニュームとサフィニアの紅花を絶やさないこととし(これは息子夫婦の義務)、通りがかりの人が塀越しに、ハーフティンバー建築と草花とのハーモニーを楽しめるようにした。幸い、近隣の人達から「通るたびに心が和む」と好評を得ている。
    個人住宅に対する法的規制が緩かなわが国にあっては”街全体が芸術品”といわれるようなヨーロッパの街の家並の均整美は求めうべくもないが、せめて唯我独尊的でなく、周辺との調和を求める気風を育てたいものである。

 

 

前のページへ戻る

このページの先頭へ