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機関紙「住団連」
  • 『提案と実現の時代』
  • 東京大学工学部教授  小宮山 宏
  • 20世紀に、人間の活動は爆発的ともいえる膨張を遂げた。人口は3.7倍 穀物生産は7倍、エネルギーの使用量は25倍、鉄鋼とアルミニウムの生産はそれぞれ20倍、4000倍に増えた。また、情報機器など19世紀には存在しなかったものが多数出現し、知識や情報の量も飛躍的に増大した。こうした膨張が生活を豊かにさせた一方で、いくつかの基本的な矛盾を発生させ、それに対して沈黙の春、成長の限界といった先見性のある警告がなされた。20世紀は膨張と警告の時代だったのである。
  • 仮にこうした流れを継続するとしたとき、21世紀中に地球に生ずるであろう問題を、物質とエネルギーという観点から考察すると、大量の廃棄物の発生、地球の温暖化、石油と天然ガスの枯渇の3点が挙げられる。あとの2点はよく議論されていることであるが、20世紀の後半に生産された人工物の寿命を考えるとき、最も確実な問題は21世紀前半から始まる大量の廃棄物の発生なのである。
  • この状況において、とるべき戦略の幅は広くはない。基本的には、省エネルギー型のリサイクル社会を実現し、同時に自然エネルギーの開発に拍車をかけることである。注宅産業が21世紀社会に対して負うべき責任の第一は、リサイクル型住宅の実現にある。物量として最大のリサイクル対象物質は建築物であるからである。
  • リサイクルは、天然資源からの物質の生産と比較して、エネルギー消費を低下させることが可能である。現在リサイクルを困難にしている理由は、エネルギ−ではなく経済的コストにある。その主な要因は回収のための人件費であるから、合理的なシステムを構築することができれば、この問題の解決も可能なはずである。
  • 物質は保存されるので、リサイクルシステムに移行すれば、天然資源の採掘、製品の廃棄という仕組みから脱却することができる。エネルギーも量的には保存されるが、低温の熱と化して利用できなくなってしまうために、人類は常に新しいエネルギー資源を必要とする。化石資源に代わるエネルギー資源は、原子力か自然エネルギーのいずれかに求めざるを得ない。新しいエネルギ一システムの構築には長い時間がかかるし、特に密度の薄い自然エネルギーの利用システムの実現には、大きな投資を必要とする。エネルギーに関しては、21世紀を、化石資源から自然エネルギ一へ全面転換を図るための期間であるととらえるべきであろう。
  • 20世紀には、さまざまな警告がなされたが、もう警告は十分である。今必要とされるのは、こうすれば解決できるというビジョンである。筆者は、エネルギ一と物質に関する「ビジョン2050」を世に問うている(「地球持続の技術」岩波新書)。住宅産業には、住宅のリサイクルを可能とするビジョンを提案する責任があるのだ。21世紀は、ビジョンを提案しあい、さまざまな観点から、徹底的に公開で議論し、実行可能な成案を作り,合意し,決断し、実行する時代となるべきなのである。

 

 

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