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機関紙「住団連」
  • 『基本的人権としての清浄空気環境』 −シックハウス問題の解消に向けて−
  • 東京大学生産技術研究所教授  村上 周三
  • 近年、化学物質による室内空気の汚染が問題になっています。いわゆるシックハウスシンドロームというものです。これによる疾病は、複合化学物質過敏症(MCS、Multiple Chemical Sensitivity)と呼ばれています。アメリカでは、全人口の約15%がMCS患者であると推定されています。MCSが進行した患者さんの生活は悲惨なものです。しかしMCSを引き起こす生理的メカニズムは未だ医学的に解明されていないので、どのような被曝のプロセスが原因でこの症状が発生するのかよくわかっていません。従って専門家も、化学物質による空気汚染に対しては得体の知れない恐怖を抱いております。
  • きれいな水ときれいな空気は人間生活の基盤です。近年ペットボトルを持ち歩く習慣が普通になりました。水道水の品質が信用されていないことの反映です。我々は寝ても起きても呼吸しているので、空気の場合にはこれが汚染されても、ペットボトルのような防御手段を探すという訳にはいきません。我々の呼吸する空気が水道水のように信用されなくなることは生活基盤の破壊といえます。“清浄な空気を確保することは基本的人権である”という考え方に立って、清浄空気環境の確保に努力しなければならないと思います。WHO(世界保健機構)では、2000年に、“The Right to Healthy Indoor Air”(健康な空気に対する権利)を発表して、我々が清浄な空気を呼吸することができることが基本的人権であることを広く世界に訴えました。
  • “住”はまさに生活の基盤です。我々建築関係者には、sick houseでなく、healthy houseを設計・生産することに大きな責任があります。シックハウスは、建物の中に存在する有害な化学物質が空気中に放散することにより発生します。問題を引き起こす化学物質は上述のようにホルムアルデヒドやトルエン、キシレン、パラジクロロベンゼンなどの揮発性有機化合物で、これらは建材や家具、またこれらに使われている塗料、接着剤、あるいは日常生活で用いる防臭剤、防腐剤、化粧品などさまざまなものに含まれています。上記の物質の他にも疑わしい物質はあるといわれています。
  • シックハウスを防ぐための第一の対策は、有害な化学物質を含んだ建材、接着剤や、家具、日常生活用品等を用いないことです。建材・接着剤については、最近、改善が急速に進みつつあります。しかし、建材だけが改善されても有害物質を含むものは日常生活の中に数多く存在するので、完全な対策には未だ道遠しというのが実情です。第二の対策は換気です。「閉め切った部屋の中には有害物質が滞留しやすい」ということを肝に銘じて、こまめに窓をあけたり、換気扇を回すことが必要です。すなわちシックハウスは省エネ対策による高気密化の副作用という側面を持っています。
  • シックハウスについては、政府も関連業界も学会もその改善に努力しています。国土交通省、厚生労働省、経済通産省、農林省などが中心となり健康住宅研究会等を組織され、対策が検討されております。
  • 建設業界や建材、塗料、接着剤などの産業界もホルムアルデヒドやトルエン、キシレンなどの化学物質を発生させない住宅や建材、工法の開発に努力しており、状況は改善されています。学会でも研究活動は活発です。
  • シックハウス問題は便利な化学物質を多用したことの副作用のようなものです。今のペースで研究が進めばシックハウス対策は、今後5〜10年位でかなり進展すると予測されます。しかしながら一般社会における化学物質多用の副作用は、環境ホルモン問題をはじめ今後さまざまな形で出現すると思います。その意味ではシックハウス問題は、人間環境が化学物質と安全に共存するための戦いの序曲ということができます。基本的人権である清浄空気環境を、化学物質汚染から守るための戦いに、なんとしても勝たなければならないと思います。

 

 

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