住宅すまいWEB
ホーム / 過去ログ一覧 / 機関紙「住団連」 / 機関誌巻頭言 / 『人が地震で死ななくなる日は』
機関紙「住団連」
  • 『人が地震で死ななくなる日は』
  • 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授  小谷 俊介
  • 1月末に、インド西部Gujarat州でマグニチュード7.7という巨大地震が発生し、建物の倒壊により数多くの死者を出した。インド大陸は、石炭紀(約3億年前)にはアフリカ、南極大陸、オーストラリアなどと接していたのが、北へ移動してアジア大陸と衝突してヒマラヤ山脈を造るまでになった。今回の地震は、アジア大陸とインド大陸のプレート境界よりはインド側で生じており、震源深さが浅い典型的な直下型地震である。再び、日本の阪神淡路大震災をはるかに上回る災害が繰り返された。
  • これらの災害を見るとき、誰もが耐震構造技術に問題があることを指摘する。耐震構造技術を研究する者にとっては心外である。地震学会が世界で最初に組織されたのは日本であり、1880年横浜地震を契機としている。爾来、日本における地震の研究は世界をリードして現在に至っている。地震学に触発されて、1891年濃尾地震以後に耐震構造に関する研究が組織的に行われて、1923年関東大震災の後に世界で初めて耐震設計が規定化された。新しい地震災害の経験と学問・技術の進歩にともなって耐震規定は改定されている。特に、1968年十勝沖地震の後、計算機技術の発達、構造部材の実験による知見、地震動の観測などを通して、耐震構造技術が大きく発達した。その1区切りとなるのが1981年の建築基準法施行令改正であり、いわゆる新耐震設計法の導入である。
  • 日本建築学会では、阪神淡路大震災を学術的に調査した結果を全10巻の報告書として刊行している。私が専門とする鉄筋コンクリート構造について、灘区および東灘区の震度VIIという最も震動が激しかった地域を限定し、全ての建物3,911棟(その70%が集合住宅)の被害統計が載っている。新耐震設計法に従った建物のうち倒壊・大破したものは1.6%で、1971年以前の建物の9.6%に比べて大幅に減少し、耐震技術の発達の効果が著しい。ただし、中高層建築物では、5階程度を超えると、建物高さが高くなるにしたがってその被害の割合が高くなっている。同様な調査を商業地域で行った結果では、1981年以降の建物でも倒壊・大破が6.6%(1971年以前の建物では15.5%)にもなっている。
  • 耐震構造の目標は、大地震においても人命を損なう倒壊・大破を防止することであり、兵庫県南部地震では現在の耐震構造技術がほぼ目標を達成程度に成熟したことを明らかにしたと言えよう。
  • そうは言うものの、老朽化した木造建物の倒壊により、数多くの方が亡くなられた。多くはお年寄りであり、また、安い木造の下宿に住んでいた若者であった。
  • 自分が住んでいる建物が地震に対して安全であることを望まない人間はいない。しかし、自分のお金をそこにつぎ込むか否かは、個人1人1人の選択であり、技術の問題ではない。発展途上国のインドであろうと、耐震構造技術が成熟した日本であろうと、人々に耐震構造技術を利用していただかなければ、地震災害は繰り替えされてしまう。どのようにしたら、人々の耐震化への関心を高めたらよいかと、耐震構造技術を離れて思い悩む日々である。

 

 

前のページへ戻る

このページの先頭へ