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機関紙「住団連」
  • 『グッド・ウィルからコミュニティービジネスへ』 −路上生活者の居住支援−
  • 和洋女子大学家政学部生活環境学科教授  中島 明子
  • 路上生活者への支援ボランティアに参加して10余年になる。住宅政策が住宅に住んでいる世帯だけが対象となっており、「住宅が無い人々」にはほぼ無関係であることにある時気づいたからである。私が所属しているのは東京の山谷地域で活動する<ふるさとの会>である。かつて山谷は土木建設現場等で働く日雇い労働者が集中する寄せ場であったが、不況の下で路上生活者が集中する地域に変貌した。支援の性格も、日雇い労働者の雇用問題から福祉的支援へと変化し、路上生活が長期化し高齢化する中で、心身の健康と人間らしい生活を回復する課題に比重がおかれるようになった。会には年齢、性別、職業が異なる多様な人々が参加している。若い人々は社会的正義感や同情もあるが、「何故、路上で暮らさなければならないか?」という素朴な疑問から入って来ることが多い。
  • 会発足後5年ほど経って、ふるさとの会はH&C財団の助成を受け、マンションの一戸を借りて自立支援センターを設立した。さらにより安定した住居を確保しながら自立支援を行おうと開設したのが、20人規模の男性用宿泊所<ふるさと千束館>である。1千万円近くの資金を募り、借家の内部を改造して完成した。改造計画は若手建築家グループが中心となって作成し、内装は埼玉県小川町の和紙業者から寄付された和紙を皆で貼った。カーテンはインテリアデザイナーの栗山礼子さんの尽力でリリカルから寄付して頂いた。路上生活者も働き組を結成し作業に加わっている。ボランティア活動は、基本的にはグッド・ウィル(良識と善意)の集合であり、この宿泊所はグッド・ウィルの結実でもある。
  • さて、1棟目が完成して間もなく、路上生活で最も厳しい状況にある女性を支援するべきだと提案され、女性用居住施設<日の出館>が昨年夏に完成した。現在3棟目の<あさひ館>が計画中である。いずれの宿泊所も予算等の事情で十分なものではないが、入居者と働く人が少しでも誇りに思えるものとして計画された。環境共生プロジェクトに対しては住宅生産団体連合会から助成をいただいている。コモンスペースを充実させ、居住者の食事と交流の場と共に、ボランティアや訪問看護士等が入ることができ、地域との交流の場をつくった。ふるさとの会は特定非営利法人としての認可も得、東京都からの事業委託もあり、今や1億円規模の事業主体である。山谷地域に根ざし、地域の財産であるヒトやモノを活用して路上生活者支援のために福祉的支援を行い、雇用を創出し、地域再生へと向かう、コミュニティービジネスとしての発展である。5年前には誰も予測しなかった。
  • しかし、東京都23区(人口792万人)には公式データでも5,700人の路上生活者がおり、私たちの活動は未だに大海の一滴に過ぎない。また、路上生活防止策が欠落しているから、いくら支援しても終わりがない。不安定雇用と結びついた不安定居住(飯場や住み込み労働等)の問題や、リストラに伴う住居の喪失など、検討すべき課題は大きい。
  • 住居は人間が人間の尊厳をもって生存し、生活する不可欠の手段である。路上生活者問題解決の根本には居住保障政策が座ってなければならないのではないか。

 

 

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