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機関紙「住団連」
  • 『多様でオープンな技能の育成にむけて』
  • 東洋大学工学部建築学科教授 工学博士  秋山 哲一
  • 世界の中でもずば抜けて高水準を保ってきた日本の住宅建設投資がストック型に移行し、将来的には新築住宅戸数でいうと約80万戸、最盛期の住宅建設戸数の半分程度になるという悲観的な予測もある。建設量が減少する中で、建設業に携わっている650万人の人材(技術者・技能者)の雇用問題が顕在化するのも時間の問題である。
  • 一方で、建築活動を担うべき技能者の不足や高齢化が建築産業、とりわけ住宅産業の重要課題として取りあげられて久しい。大手住宅メーカーなどでは、技能的要素をできるだけ少なくし単純化することによって、自社の生産システムに適合する技能者を社員化により育成している。ただし、社員化による技能者育成制度の推進は、1人あたり年間600万円から800万円の費用が必要といわれており、また、必ずしも育成した若手技能者がその企業に定着するとは限らないというリスクも含んでいる。そのため社員化育成を継続しているのは経営環境の安定した大手住宅メーカーに限られているのが現状である。また、少数ではあるが地域の小規模住宅生産組織の協同化による技能者育成も徐々にではあるがその取り組みが実施されている。しかし、育成組織として経営的に安定しているとは言い難いのが現状である。それぞれの育成組織の設立に多くの困難な状況があるうえに、応募者の確保、受け入れ事業所の確保など運営上の問題点が顕在化しつつある。
  • 特に、最近の主要な傾向として、住宅需要の減少をうけて熟練労働力の調達が比較的容易になり、住宅建設コスト削減が強く求められる中で技能者育成のための投資が大きく削減されつつある。多くの技能者育成の取り組みが、新規募集を停止したり、修業期間を短縮するなど縮小基調へと方向転換を余儀なくされつつある。住宅産業において将来も含めて継続的かつ安定的に優秀な技能者を雇用するためにはどのようなコストを負担すべきなのか、また技能者育成にはどのようなコストがかかるのか不透明である。コスト削減要求が強い現在こそ、技能者育成に必要な費用負担の原則を構築することが重要である。
  • 今春、フランスの巡歴型の技能者育成を継続している育成組織を見学する機会があった。巡歴型の技能者育成は、職人仲間の組織ともいうべきコンパニョナージュによって運営されている。コンパニョナージュによる技能者育成システムの特徴は、修業期間中に「職人の家」のある街まちを巡る巡歴形式の修業を行うことである。修得する技能の内容は伝統的なものから最新の技術の適合するものまで幅広いプログラムが用意されている。現在、年間2000人にのぼる技能者育成を継続するなど成果を挙げている。日本の技能者育成の場合は、修得した技能の領域がクローズドで汎用性がない場合が多い。また、自ら修得した技能を他の生産システムの技能と比較して評価する機会がない。一方、巡歴システムの場合には修得した技能を客観化・相対化しながら学び、かつ、その技能を生みだした歴史的文化的背景をも理解することが可能である。日本の住宅産業界も、多様でオープンな技能修得の機会を、産業として積極的に作り上げていく必要があると思われる。

 

 

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