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機関紙「住団連」
  • 『「普通の家」とは』
  • 日本女子大学家政学部住居学科教授
    早稲田大学大学院理工学研究科客員教授工学博士  後藤 久
  • 「すまい」とは、という問いに一言で答えることは大変難しい。言えることは、「ただいま」と帰ってきた時に「おかえりなさい」と優しく迎えてくれるような、心身共に休まるものでなければならないということである。今日のコンピュータの威力は恐るべきものであり、人類が宇宙旅行できる時代にあって、住宅に関して我々が考えられる希望は全て叶えられると言っても過言ではない。もっともコストのことを除外すればの話である。ところで、こうして出来た家は便利な家ではあるが住みやすい家とは限らない。すなわち便利な家と住みやすい家とは、必ずしもイコールではない。
  • 近年、私は自分の専門の他に「建築と自然共生」という総合科目(昔の一般教育)の講義を一こま担当しているが、この授業の中で、まず「普通の家」とはどんな家かを問うことから始めている。今日の若い学生にとって、暑ければエアコンのスイッチを入れるのが「普通の家」のようだ。しかし暑ければ窓を開けて風を通すのが、本来の人間として「普通の家」なのである。現在では当たり前だと思っている冷房のよくきいた部屋も、本当は「普通の家」ではない。動物本来の姿を考えれば、風通しが良くて涼しい部屋こそ「普通の部屋」であることを忘れている。したがって私たち現代人が、「普通の家」だと思っているものは、本当は「普通の家」ではないのだ。今日、学生たちにこのことを理解させるためには、大気汚染、地球温暖化、省エネ、健康などなど、科学から感性の問題まで多岐にわたって話をしなければならない。
  • さて、先人たちが長い時間の中で考え行ってきたことは、今日なお学ぶところが少なくない。私たちはこれからの住まいを考える時、IT先端技術を導入する一方で、通風や換気など、昔ながらの何でもないようなことにもう一度注目する必要がある。
  • ほんの一例を上げれば、パキスタンの家に見られる屋根の上に突き出た煙突のような風受け「バッド・ギア」は、極めて単純な原理ながら、暑い地方において考え出された通風装置の好例である。このように家の中に風を取り入れて涼しくする知恵は、古くはエジプト中王国時代の壁画にも描かれている。形こそ違うが、何世紀も前からペルーやアフガニスタンでも同様の風受けが使われていたことは興味深い。
  • 言うまでもなく、こうした先人たちの知恵は通風に限ったことではない。カメルーンの泥で出来たドーム状の家は、その表面全体に模様のような凸凹が付いている。表面の凸部に陽が当たれば必ずその下の凹部は陰になる。言い変えれば、建物の表面全体に凸凹を付けることにより、日陰にするものが何もない砂漠の中で、太陽が真上にあってもなお外壁の半分を日陰にしている。こうしたことは現代においても侮れない。今日エアコン全盛の時代において一見無関係に見えるが、この凸凹のことを応用すれば、エアコンの容量は小さくてすみ、それだけ公害も減り省エネにもなる。私たちの家にも機械化、ハイテク技術を導入するだけでなく、今こそもう一度「普通の家」の原点に立ち返り、先人の知恵と工夫を見直す必要があろう。

 

 

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