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機関紙「住団連」
  • 『安らぎ』と『機能性』
  • 三重大学 生物資源学部 共生環境学科教授  舩岡 正光
  • 20世紀の活動は人間のライフスタイルを大きく変え、長い歴史の中でかつてない機能的社会を生み出した。『木の文化』という言葉で表されるように木と紙(森林資源)に囲まれた日本人の生活空間の中にも様々な機能的合成品が浸透し、見事とまでいえる機能的空間が作られている。
  • 安らぎを与える天然素材と機能的合成材料……我々の生活空間から両者の必要性が失われることは決してあるまい。
  • 木質材料とハイテク合成材料……これらは通常異質な材料として理解されている。大学では、木質材料は農学部、合成材料は工学部の研究領域であり、社会では前者は農林水産省、後者は経済産業省の領域である。両者の間に技術的な、また物質的なつながりはほとんどないといっても過言ではない。しかし、両者は決して異質な資源ではなく、数千万年の時間を経てつながる何れも生物資源(森林資源と化石資源)に基づいているということを我々は深く認識する必要がある。生物体である人間は、生物素材の持つ多様性、複雑性、不規則性に限りない神秘性と安らぎを感じ、一方生物素材の持つ暖味さを全て排除し、それを構成する分子素材をもとに精密に組み上げた合成材料に限りない誇りと先進性を感じるのである。21世紀の生活空間、それは決して天然物中心の空間でもなければ合成材料にあふれた空間でもない。両者が高度に調和した空間こそ新しい人間の活動の場であり、それは複合体としての、そして構成分子の機能を高度に強調した生物素材に基づく空間なのである。
  • 炭素資源循環の起点と終点に位置する木と合成材料……この位置づけとつながりを理解すれば、自ずとその取り扱いに違いがあることに気づく。木質資源を利用後廃棄することは、資源循環の重要性を認識しながらも我々自身が物質の循環系をその起点の段階(木材)で断ち切っていることになる。
  • 21世紀における持続的社会構築のキーは、私たちの生活空間を構成している材料に対する私たち自身の認識にある。すなわち木の机を買ったとき、机としての機能を購入したと認識しなければならない。机としての機能が失われても構成する分子素材の機能が失われたのではない。したがって、使用後その素材は社会に返す。社会はそれを受け取り、分子レベルで新しい材料に転換、製品化する、という一つの材料にこだわらない分子レベルでの前進型循環システムを構築しなければならない。さらに、資源循環に『Time Factor』を導入することも重要である。草のように短期間で固体から気体へと循環する資源を長期間リサイクル活用する必要はなく、一方長期循環資源である木材を一製品として短期的に利用後廃棄してはならない。法隆寺がなお立っているのは、木質資源は長期固定炭素資源であることを我々に提示しているのである。
  • 森林資源を合成化学へとリンクさせること、すなわち、森林資源に対する木材、紙を越えた価値の創出は、植物資源生産基盤(林業、農業)を活性化し、これはとりもなおさず環境保全へとつながる。生活空間における木質材料と合成材料のつながり、そして循環系炭素の長期循環利用の意義と効果が深く認識され、農学(農業)と工学(工業)との間に物資と技術をフローさせる橋がかかり、生態系システムに沿った快適で明るい持続的資源循環型社会が構築されることを願っている。

 

 

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