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機関紙「住団連」
  • 『チエと時間をかけてよりよいストックを』
  • 東洋大学工学部 建築学科教授  上杉 啓
  • ここ数ヶ月間に幾つかの住宅を見た。一方は建築家や工務店による新築やリフォームの作品群、他方は住宅会社による新築およびリフォームの作品群である。
  • 建築家・工務店によるものは、A.女性建築家による郊外の木造戸建住宅(96平米)、B.男性建築家による抑博建て店舗付き鉄骨造住宅(134平米)、C.男女建築家による都内の木造一戸建て住宅のリフォーム、D.小工務店設計施工による都内の小屋裏三階建て新築木造戸建住宅(96平米)の計4件である。
    住宅会社によるものは、マンションのリフォーム3件:E.都内の賃貸用ワンルームマンション(25平米)、F.埼玉県の家族用マンション(63平米)、G.大阪市のマンション(70平米)と、H.神戸の木造戸建住宅のリフォーム。ほかに、I.工事中のツーバーフォー共同建住宅の計5件である。
  • A、B、Cは、いずれも建築家の手になる創意工夫に溢れている。Aは奇想天外な発想から屋根上にリビングを設けたもの。Bは極めてローコストで材料と構法に工夫し、都内の狭い敷地(85平米)に中庭を取り、二階にシースルーの明るい浴室確保の新工夫があるもの。Cは2項道路の奥にあり新築・増築不可能な土地に建つ戸建。吹き抜けで明るさを確保し、50平米という狭い敷地での小屋裏3階建に無駄なく連続する空間を計画したもの。Dも狭い敷地(83平米、25坪)に7人が住むための小屋裏3階建てで、老夫婦介護の場合も想定した家造りである。いずれも建築家が関与しなかったら、これだけ見事に仕上がらなかっただろうし、これだけエネルギーをかけてやらなかっただろうと思われた。
  • 大手住宅会社による新築あるいはリフォームも、それなりの努力をしていることは確かなのだが、建築家系のものに較べると希薄感を免れなかった。しかし、住宅会社の中にも社員である女性建築家が力を発揮している例もあるし、支店長自ら設計・施工管理して成功している例もある。したがって、携わるものが喜んで十分に仕事が出来る状況を創り出しているか否かに重要な分かれ目があると思われる。
  • 昨今、不況の影響で企業は新築も増築も、営業も工事も合理化一点張りである。たしかに、住宅は新築・増改築とも件数も少なく、金額も小さくなった。その結果、「いわゆる合理化」となり、一物件の打合せ・設計にも、施工にも、従来に比べ時間・エネルギーをかけなくなった。「少額でも数をこなせ」が企業命令となっている。できあがった住宅を見ると、計画におけるチエや工夫も、細部にかけるエネルギーも希薄になっている。良い住宅を造るには、お手軽に部品を当てはめるだけではだめで、それ相応のエネルギーの集積が必要である。一流のプロと言えども時間をかけずに良いものは作れない。
  • 日本には、設計事務所という情熱のある優れた頭脳集団が全国各地に溢れている。この外部資源を有効に活用できないものだろうか。この不況の時こそ、他社を追い越す絶好のチャンスであろう。大げさに言えば、下剋上の時代である。リストラや外注削減の世の中であるが、優れた資質の建築家とそのエネルギーを活用して「よりよいストック」をぜひ増やして欲しいものである。

 

 

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