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機関紙「住団連」
  • 『都市ダム宣言』
  • 広島大学大学院工学研究科 社会環境システム専攻教授  村川 三郎
  • 人間が生命を維持し、社会生活を営んでいく上で、安全で衛生的な水を確保することは言うまでもない。最近、発展途上国であるミャンマーで伝統的集落における人々の生活と住居環境の調査を進めているが、それぞれの集落における生活用水源は、近くの共同井戸やため池、雨季では屋根面から収集した雨水であったりすることが多い。朝夕にはそのような水源から水を運ぶ村人の姿を多く見かける。生活の基盤である近代的なインフラ施設が整備されていない人々にとって、共同井戸・ため池は、いつも目の届くところにあり、大切に維持管理されている。このような環境に出会うと、給水栓を捻れば清浄な水が得られる水道システムの普及率が全国平均で96%以上に達し、トイレ洗浄用や散水用にまで飲用レベルの水質を保証しているわが国の豊かさをあらためて感じる。
  • しかし、水資源について世界的に見るなら、増大する水需要量から、地下水の枯渇・汚染が懸念されている。また、水資源問題は地球規模の温暖化現象とも深い関わりをもっている。最近の世界における局地的な豪雨・干魃の頻発傾向は、食糧産物の多くを輸入に依存しているわが国にとって無関心ではいられない。このような降雨の大きな変動傾向はわが国にも多発するようになってきており、平成6年の全国的な長期に渡る渇水、平成11の広島豪雨、12年の東海豪雨などでは大きな被害を受けている。人口の稠密なわが国の都市部は自然災害に対して依然として脆弱な基盤の下にあることは否定できない。
  • それでは、都市部において自前で水資源を確保し、さらに洪水制御を図っていくにはどのような対策が考えられるか。これまでの大規模システムを中心とした整備から、リスクを分散する小規模システムの構築に目を向けることも重要である。その一つに、住宅を含めて建物で雨水を貯め、それを利用する「都市ダム」の建設が考えられる。
  • 住宅における雨水利用システムについては、水道が未整備で自己水源として全面的に雨水に依存せざるを得ない離島などと、水道のある都市部では、その計画コンセプトは基本的に異なる。前者の場合は、雨水の収集面・貯留槽などに全用途の利用を考慮した規模が必要になるが、後者では水道による補給を前提にすることができるので、住宅の環境に応じた計画が可能である。節水都市と言われる福岡を例に、屋根を収集面とした戸建て住宅の雨水利用を検討したことがある。それによれば、標準的な4人世帯でトイレ洗浄用途のみに雨水を利用するとして、1m3の貯留槽を設置するなら、雨水で必要量の約70〜80%を賄うことができる。住宅でのトイレ用途の1人1日あたり使用水量は40〜50Lであるから、この程度の規模でも有用性は大きい。また、貯留による都市型洪水の防止・抑制効果も確認している。現在、東京の墨田区では「路地尊」と呼ばれる住宅の屋根面から収集し貯留する雨水利用システムが普及している。日常は散水用として使われているが、非常時での活用が意図されている。身近にこのようなシステムを作ることは環境教育にもなるであろう。
  • 個々の住宅での小規模な雨水貯留でもそれらを集積した都市部では、自然を破壊することなく巨大な「都市ダム」を築いたことになる。資源循環型社会の構築が緊要な課題となっている現在、都市部での総合的な水環境整備計画の重要性を指摘しておきたい。

 

 

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